「美濃鍛冶小論」

10−1 西郡(さいぐん)


 青墓の地とならんで、今一カ所美濃地方に古く刀鍛冶が活躍した所に西郡が
あります。

 『往昔抄』所載の「濃州大野郡西郡住人寿命……」の太刀で知られる地域で、
この地は現在の揖斐川中流域の左岸、大野町と揖斐川町にまたがる地域で、
現在では一面に田畑の広がる西濃地方の農業地帯として栄えています。

 古く鎌倉期は美濃国の荘園の名称で、『吾妻鏡』にその名がみられます。
 もちろん、現在寿命の住した所の確認はできませんが、荘園内の有力者の
協力で鍛刀活動を行なっていた事が想像できます。寿命の名はその後長く受け
継がれておりましたが、西郡の地で、その後刀鍛冶が活躍した記録はなく、
荘園制度の崩壊とともに活動の場を他の地に移したのでしょう。