小督(こごう)
ある日 金山と見える鉄鍔を手に入れました。

切羽台の上には屋根状のものが、下には瓢箪が透かされています。
屋根があって瓢箪・・・。前述の「はしとみ」ではないか?と思い、友人達に披露していましたが、心の内では「はしとみが何故こんなに多いのか?鍔の世界は不思議な世界だなー」と半信半疑でした。

ある友人にこの鍔を見せた時「これは家じゃない。こんな屋根があるか。神社仏閣でもこんな屋根ないよ。」と突っ込まれ、さらに「これは琴柱だよ。」と言われました。私はあまりの事に返事もできませんでした。琴柱(ことじ)とは琴糸の音程を調節するものです。

その日以来、私は琴柱と瓢箪の判じ物に悩まされ続けました。それでも能楽の何かの演目に間違いないと頑固にこだわり続け、琴と瓢箪を謡曲本に探し続けました。「わからん、わからん」と言いながら・・・。しかし、そんな判じ物は何処にも見当たりません。

或る日、何とはなしに小道具の本をめくっていたら、「張果老」と題する縁頭を見つけました。中国の仙人と瓢箪とロバの図でした。
唐の仙人張果老は白いロバに乗っていて、休む時は瓢箪の中にロバを収めていたという中国の民話。いわゆる「瓢箪から駒」の話でした。

そこで今度は琴と駒をヒントにして、能の謡曲本を改めて調べ始めました。すると、ありました!ついにみつけました!

能の題名は「小督」(こごう)の仕舞の名曲「駒の段」の一節
「明月に鞭をあげて駒を早め急がん(中略) 峯の嵐か松風か それかあらぬか尋ぬる人の琴の音か 楽は何ぞと聞きたれば 夫を思いて恋ふる名の想夫恋なるぞうれしき」
仕舞というのは囃子なしで地謡だけで舞う演目、面(おもて)も付けずに舞う演目のことです。

能「小督」の物語というのは
嵯峨野の奥に身を潜めた小督の局を高倉帝の勅命を受けて、弾正大粥仲国が仲秋名月の夜に、御寮の馬に乗って尋ねる。此処彼処に駒を寄せ尋ねると、賤が家から想夫恋の琴の音が聞こえる。それは正しく尋ねる小督の局の琴の音である。仲国は案内を請い、帝の文を渡すと、局はいにしえの事などを思い浮かべ涙ながらに物語し、仲国も舞を舞い、局を慰め、お返事を頂き、都へ戻った。という物語です。

私にとっては、これぞ正しく「瓢箪から駒」から解決できた話です。

  縦72mm横72mm切羽台厚み5.3mm耳小丸厚5.4mm
笄櫃鉛埋